(本欄は、当会の建築士講座講師が適宜分担して執筆し、当会建築士講座監修者(元国土交通省室長)が総合監修します。)
(令和4年度 第19回)令和4年10月21日
パッシブデザインによる省エネルギー計画
近年、身近な問題から地球規模の問題まで環境問題は最も重要度の高いものの一つとなってきていることは、申すまでもありません。当然、建築士試験の問題としても様々な角度から取り上げられるようになってきており、その傾向は今後、更に顕著なものとなることが予想されます。
【問題1】自然エネルギーを利用した建築物のパッシブデザインにおけるパッシブヒーティングの原則に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
- 建築物の断熱・気密性能を高める。
- 建築物の集熱性能を高める。
- 建築物の日射遮性能を高める。
- 建築物の蓄熱性能を高める。
この問題は、平成26年度の一級建築士試験計画の問題ですが、いわゆる環境に配慮した設備計画、省エネルギーといった視点からの問題とは異なり、広義のデザイン、建築計画の面から省エネルギーに配慮した建物、環境に配慮した建物を考える、パッシブデザインに焦点を当てた問題である点が注目されます。
設問1は、パッシブヒーティングとは、建築物の形態や材料の種類・構成などを考えることにより、日射などを利用して暖房や給湯を行い、省エネルギーを図る手法をいいますが、建築物の断熱・気密性能を高めることにより、室内の熱損失を抑えられるため、正です。
設問2は、屋根裏などの高温空気を建築物内部に循環させたり、給湯の熱源に利用するなど、建物の集熱性能を高めることは有効であるため、正です。
設問3は、温暖地において屋根の日射遮蔽性能を高めることは、冷房負荷を低減させ省エネルギーにつながる場合もあり得ますが、他方、外壁やガラス窓の日射遮蔽性能を高めると、暖房のための日射利用の妨げとなり好ましくない場合もあるため、誤りです。
設問4は、窓からの日射の受熱・蓄熱、暖気の床下蓄熱など、建築物の蓄熱性能を高めることによる自然環境のエネルギーの有効活用につながるため、正です。
【問題2】住宅の計画に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
- 車椅子使用者に配慮し、居室の出入口扉の前後は段差を避け、内法(のり)寸法で140cm×140cm程度のスペースを確保する。
- 我が国において、窓を南面で大きく、東西面でなるべく小さく計画することは、パッシブデザインの設計手法の一つである。
- 和室を江戸間(田舎間)とする場合、柱と柱の内法(のり)寸法を、基準寸法の整数倍とする。
- コア型の住宅は、設備を1箇所にまとめた形式であり、設備工事費の低減や動線の単純化を図り、外周部には居室を配置することができる。
- ユーティリティの延長として、屋外にサービスヤードを設ける。
この問題は平成27年の二級建築士試験計画の問題です。
この問題は、様々な住宅計画の設問の一つとしてパッシブデザインを取り上げています。
設問2は、我が国において、窓を南面で大きく、東西面でなるべく小さく計画することや庇の深さや植栽等により更に太陽光をコントロールして、採光・暖房等に有効活用することは、我国において広く行われてきたパッシブデザインの一手法ともいえるので、正です。
このように、設備機器の省エネ性能等から考えるのではなく、本来のデザインの広義の意味でもある、地域の環境に留意した建物の構造、構成などから、建築の省エネについて考えるパッシブデザインは、我が国では沖縄県の名護市庁舎(象設計集団設計)などが先駆的な例としてあげられます。
今後も自然環境を利用した、自然環境と共生する建物として省エネを考えるパッシブデザインは、環境問題を考える大きな流れとなって行き、建築士試験の問題としても留意して行く必要があると考えられます。
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